薬剤師実習と給料の関係は?薬学生と指導薬剤師、それぞれの視点から解説
薬剤師になるための道のりには、薬学部での座学に加え、実際の医療現場で行われる「実務実習」が不可欠です。この実習期間や、実習生の指導に関わる薬剤師の「給料」や「手当」について、疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。「薬学生の実習中に給料はもらえるの?」「実習指導をすると特別な手当はあるの?」といった関心に応えるべく、この記事では薬剤師の実務実習と給料の関係について、薬学生と指導薬剤師、それぞれの視点から詳しく解説します。
薬学生の実務実習とは
薬学生の実務実習は、薬剤師免許を取得するために薬学教育課程(通常6年制)の中で義務付けられている臨床現場での教育プログラムです。
- 目的: 講義や学内実習で得た知識や技能を、実際の医療現場(病院や薬局)で実践的に活用し、薬剤師として必要な倫理観、コミュニケーション能力、問題解決能力などを総合的に養うことを目的としています。
- 期間と内容: 文部科学省が定める「薬学教育モデル・コアカリキュラム」に準拠し、病院と薬局それぞれで約11週間(合計約5ヶ月間)の実習が行われます。実習生は、指導薬剤師の監督のもと、調剤業務、服薬指導、医薬品管理、チーム医療への参加など、薬剤師の実際の業務を幅広く経験します。
- 薬剤師国家試験の受験資格: この実務実習を修了することが、薬剤師国家試験の受験資格を得るための必須条件の一つとなっています。
薬学生の実務実習中の給料について
薬学生が最も気になる点の一つが、実務実習期間中に給料やアルバイト代のような報酬が支払われるのかどうか、という点でしょう。
結論から申し上げますと、薬学生の実務実習は教育課程の一環であるため、原則として給料や報酬は支払われません。 これは、実習生が「学生」という身分であり、労働者として業務に従事するわけではないためです。
むしろ、実習期間中は以下のような費用が自己負担となるケースが一般的です。
- 交通費: 自宅から実習施設までの往復交通費。
- 食費: 実習中の昼食代など。
- 白衣・教材費: 実習に必要な白衣や参考書などの購入費用。
- 宿泊費: 自宅から通えない遠方の施設で実習を行う場合、宿泊費が必要になることがあります。
- その他: 一部の実習施設では、実習受け入れに伴う費用(実習費)の支払いが必要となる場合もあります。
なぜ無給なのか?
実務実習は、あくまで薬学教育の一部であり、学生が知識や技能を習得し、薬剤師としての資質を涵養するための「学びの場」です。実習施設は、学生に教育の機会を提供し、指導薬剤師がその指導・監督にあたります。そのため、労働の対価としての給料は発生しないという考え方が基本となっています。
ただし、ごく稀に、特定の奨学金制度の一環として実習期間中に手当が支給されたり、へき地医療体験プログラムなどで少額の補助が出たりするケースも存在しますが、これらは一般的な実務実習とは異なります。
実務実習指導薬剤師の役割と手当・評価
一方、実習生を受け入れ、その指導・監督にあたる薬剤師(実務実習指導薬剤師)の立場からは、どのような手当や評価があるのでしょうか。
指導薬剤師の役割:
実務実習指導薬剤師は、薬学生が効果的に実習を進められるよう、実習計画の立案、業務指導、質疑応答、実習内容の評価など、多岐にわたる重要な役割を担います。学生一人ひとりの習熟度に合わせて丁寧な指導を行うことが求められ、次世代の薬剤師育成に直接的に貢献します。
なお、実務実習の指導を行うためには、一定の要件を満たし、「認定実務実習指導薬剤師」としての認定を受けていることが望ましいとされています。
指導薬剤師への手当・評価の現状:
実習指導薬剤師の労力や貢献に対して、特別な「実習指導手当」が毎月のように高額で支給されるケースは、残念ながら一般的ではありません。 多くの薬局や病院では、実習生の指導は薬剤師の通常業務の一環、あるいは教育的役割として位置づけられていることが多いようです。
しかし、全く評価されないわけではありません。
- 業務評価への反映: 実習指導への積極的な関与や指導実績が、人事評価(賞与や昇給の査定)の際に考慮される場合があります。
- 施設ごとのインセンティブ: 一部の薬局チェーンや病院では、実習生を受け入れたことに対する施設への報奨金制度があったり、指導薬剤師に対して少額の手当や時間外手当として考慮したりするケースも見られます。
- 薬剤師会などからの謝金: 地域の薬剤師会などが主催する実習関連の会議や研修に参加した場合に、謝金が支払われることもありますが、これは限定的です。
- 診療報酬上の評価: 薬局においては、実習生の受け入れが地域体制加算などの施設基準に関わってくる場合があり、間接的に薬局経営に貢献する側面もありますが、これが直接指導薬剤師の給与に大きく反映されるとは限りません。
実習指導は、時間的にも精神的にも負担が伴う業務ですが、多くの指導薬剤師は、後進の育成への情熱や、学生との交流を通じて自身の知識や指導スキルが向上するといった点にやりがいを感じています。
薬学生が実習期間中の経済的負担を軽減する方法
実習期間が無給であり、かつ費用負担も発生しうる薬学生にとって、経済的な不安は大きいかもしれません。負担を少しでも軽減するための方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 奨学金の活用: 日本学生支援機構の奨学金や、大学独自の奨学金、民間団体の奨学金など、様々な制度があります。給付型(返済不要)と貸与型(要返済)があるので、条件をよく確認しましょう。
- アルバイト: 実習期間中は学業と実習で多忙になるため、両立が難しい場合もありますが、実習開始前や土日などを利用して、計画的にアルバイトを行うことも一つの方法です。
- 実習施設からの補助の確認: 稀ではありますが、実習施設によっては交通費の一部補助や、寮の提供(有料または無料)などがある場合もあります。事前に大学や実習施設に確認してみましょう。
- 生活費の見直し: 実習期間中の生活費を計画的に管理し、節約できるところは工夫することも大切です。
実習指導薬剤師のモチベーションとキャリア
指導薬剤師にとって、実習生の指導は大きな責任と労力を伴いますが、金銭的な報酬が少ない中でも高いモチベーションを維持している方が多くいます。その源泉としては、以下のような点が挙げられます。
- 教育への貢献・次世代育成の喜び: 将来の薬剤師を育てるという使命感や、学生の成長を間近で見守る喜びは何物にも代えがたいものです。
- 自身の知識・スキルの向上: 学生に教えるためには、自身の知識を再確認したり、最新情報を学んだりする必要があり、結果として自身のスキルアップに繋がります。
- 職場への貢献: 質の高い実習を提供することで、実習施設全体の評価向上や、将来的な人材確保に繋がる可能性があります。
- キャリアアップへの影響: 指導経験は、管理薬剤師や薬局長、あるいは教育担当といったキャリアを目指す上で、貴重な経験として評価されることがあります。
まとめ
薬学生の実務実習は、薬剤師として臨床現場で活躍するための重要な教育課程であり、原則として給料は支払われません。実習期間中は、交通費などの自己負担が発生することも念頭に置き、経済的な準備をしておくことが望ましいでしょう。
一方、実務実習指導薬剤師も、その重要な役割に対して直接的な高額な手当が支給されるケースは少ないのが現状です。しかし、次世代の薬剤師を育成するという大きなやりがいや、自身の成長、そしてキャリア形成への好影響など、金銭以外の多くの価値を見出すことができます。
実習生と指導薬剤師、そして実習施設がそれぞれの役割と意義を理解し、協力し合うことで、質の高い薬剤師が育成され、将来の医療を支える力となることが期待されます。