お役立ち情報

薬剤師が活躍する開発職の仕事内容とは?製薬会社を中心に徹底解説

sho0202

薬剤師の資格や専門知識は、調剤薬局や病院での臨床業務だけでなく、新しい医薬品やヘルスケア製品を生み出す「開発職」というフィールドでも大いに活かされています。「薬剤師の資格を活かして、新しい薬や製品を開発する仕事って具体的にどんなことをするの?」「製薬会社の開発職は難しそうだけど、やりがいはあるのだろうか?」そんな疑問や関心をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この記事では、薬剤師が活躍する開発職の仕事内容について、特に製薬会社における新薬開発を中心に、その役割、魅力、そしてキャリアパスなどを詳しく解説していきます。

薬剤師が関わる「開発職」とは? – 主なフィールド

「開発職」と一言で言っても、その領域は多岐にわたります。薬剤師がその専門性を活かせる主な開発フィールドとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 製薬会社における新薬開発: 新しい医薬品を創り出し、世に送り出すための研究・開発プロセス全般。この記事では、主にこの分野について詳しく見ていきます。
  • ジェネリック医薬品の開発: 先発医薬品の特許が切れた後に、有効成分、用法・用量、効能・効果が同じで、かつ品質、有効性、安全性が同等である後発医薬品を開発します。製剤工夫や安定性試験などが重要になります。
  • 化粧品・医薬部外品・健康食品の開発: 薬剤師の皮膚科学や製剤学、栄養学などの知識が、新しい化粧品、薬用化粧品、サプリメント、特定保健用食品などの開発に活かされます。安全性や有効性の評価、薬事申請なども関わってきます。
  • 医療機器の開発: 医療機器の安全性評価や有効性検証、薬事申請といったプロセスに、薬剤師の知識が求められることがあります。

これらの分野で、薬剤師は基礎研究から製品化、そして市販後の育薬に至るまで、様々なステージで重要な役割を担っています。

製薬会社の「新薬開発」における薬剤師の主な仕事内容

一つの新しい薬が患者さんの元に届くまでには、平均して10年以上の長い歳月と莫大な費用がかかると言われています。製薬会社の開発職の薬剤師は、この長く複雑なプロセスの中で、様々な専門業務を担当します。

基礎研究・探索研究

新薬開発の最初のステップは、病気のメカニズムを解明し、薬の作用点となるターゲット(タンパク質や遺伝子など)を見つけ出し、そのターゲットに作用する可能性のある「薬の種(シーズ)」となる化合物を探索することです。

  • 業務内容例:
    • 病態解析、創薬ターゲットの検証
    • 新規化合物のデザイン、合成、構造解析
    • ハイスループットスクリーニング(多数の化合物を効率的に評価する手法)
    • バイオテクノロジーを用いた医薬品候補の創出(抗体医薬、核酸医薬など)
  • 薬剤師の役割: 薬学部で学んだ有機化学、生化学、分子生物学、薬理学などの深い知識を活かし、創薬研究に貢献します。特に大学院で専門的な研究経験を積んだ薬剤師が多く活躍しています。

非臨床試験(前臨床試験)

基礎研究で見出された候補化合物について、人での試験(臨床試験)に進む前に、その有効性と安全性を動物実験や細胞実験(in vitro試験)で詳細に評価する段階です。

  • 業務内容例:
    • 薬理試験(薬効の確認、作用メカニズムの解明)
    • 薬物動態試験(ADME:薬の吸収、分布、代謝、排泄の過程を調べる)
    • 安全性試験(毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験など)
    • 試験計画の立案、試験の実施・管理、データ解析、報告書作成
  • 薬剤師の役割: 薬物動態学や毒性学、薬理学の専門知識を駆使し、試験の計画・実施・評価に関与します。GLP(Good Laboratory Practice:医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準)を遵守した試験運営も重要です。

臨床開発(治験)

非臨床試験で有効性と安全性が確認された候補化合物は、いよいよ人を対象とした臨床試験(治験)へと進みます。治験は、通常、少数の健康な成人を対象とする第I相試験、少数の患者さんを対象とする第II相試験、多数の患者さんを対象とする第III相試験という段階を経て行われます。

  • CRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター):
    • 業務内容: 治験がGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)や治験実施計画書(プロトコル)に従って、倫理的かつ科学的に適正に実施されているかを医療機関(病院やクリニック)を訪問して確認(モニタリング)します。治験データの品質管理、医療機関スタッフとの連携、進捗管理なども重要な業務です。
    • 薬剤師の役割: 薬剤師の資格を持つCRAは、薬学的知識を活かして治験薬の管理状況を確認したり、医師や治験コーディネーター(CRC)と専門的な議論を交わしたりする上で有利です。薬剤師に人気の高い開発関連職の一つです。
  • CRC(Clinical Research Coordinator:治験コーディネーター):
    • 業務内容: 治験を実施する医療機関側で、医師の指示のもと、治験が円滑に進むように様々なサポート業務を行います。被験者(治験に参加する患者さん)への説明・同意取得の補助、スケジュール管理、検査データの収集・整理、関連部署との調整など。
    • 薬剤師の役割: 企業に所属するCRCもいますが、医療機関に所属するCRCとして薬剤師が活躍することもあります。
  • 臨床開発企画・運営・データマネジメント・統計解析:
    • 業務内容: 治験実施計画書の作成、治験の全体的な進捗管理、収集された臨床データの品質管理とデータベース構築(データマネジメント)、治験データの統計解析、総括報告書の作成など。
    • 薬剤師の役割: 薬学的知識に加え、臨床試験に関する知識、統計学の知識などが求められます。

薬事申請・承認取得

治験で医薬品の有効性と安全性が科学的に証明されると、そのデータをまとめ、厚生労働省(実際には医薬品医療機器総合機構:PMDA)に医薬品の製造販売承認を得るための申請を行います。

  • 業務内容例:
    • 承認申請資料(CTD:Common Technical Documentなど)の作成
    • 規制当局(PMDA)からの照会事項への対応
    • 薬事関連法規やガイドラインの調査・解釈
    • 海外の薬事規制に関する情報収集
  • 薬剤師の役割: 薬機法をはじめとする薬事関連法規に関する深い知識と、治験データを正確かつ論理的にまとめる能力が不可欠です。

製造販売後調査・育薬(ファーマコビジランスなど)

医薬品が承認され、市販された後も、その有効性や安全性に関する情報を継続的に収集・評価し、適正使用を推進していく活動(育薬)が重要です。特に副作用情報を収集・評価するファーマコビジランス業務は、薬剤師の専門性が大いに活かせる分野です。

  • 業務内容例:
    • 副作用や有害事象の情報の収集、評価、規制当局への報告
    • 安全管理対策の立案・実施
    • 添付文書や関連資材の改訂
    • 製造販売後調査(PMS:Post Marketing Surveillance)の計画・実施
  • 薬剤師の役割: 副作用のメカニズムやリスク評価に関する薬学的知識、情報収集・分析能力が求められます。

開発職(製薬会社)で働く薬剤師に求められるスキルと知識

製薬会社の開発職で活躍するためには、薬剤師としての基本的な知識に加え、以下のような高度なスキルや知識が求められます。

  • 薬学に関する高度な専門知識: 薬理学、製剤学、薬物動態学、有機化学、生物学、統計学など、担当する業務領域に応じた深い専門知識。
  • 臨床開発に関する知識: GCP、各種臨床試験ガイドライン、倫理指針など。
  • 薬事法規に関する知識: 薬機法をはじめとする関連法規や通知、国際的な規制動向。
  • 論理的思考力・問題解決能力: 複雑なデータを分析し、課題を特定し、科学的根拠に基づいて解決策を導き出す能力。
  • データ分析能力・統計解析スキル: 臨床試験データなどを適切に解析し、評価する能力。
  • 高いコミュニケーション能力: 社内外の様々な専門家(医師、研究者、統計家、規制当局担当者など)と円滑に連携し、効果的に情報交換を行う能力。
  • 高い倫理観と科学的公正さ: 人の生命に関わる医薬品開発において、常に高い倫理観を持ち、科学的に公正な立場で業務を遂行する姿勢。
  • 語学力(特に英語): 最新の学術論文の読解、国際共同治験への参加、海外の規制当局とのやり取り、外資系企業での社内コミュニケーションなど、英語力は多くの場面で必須となります。
  • 忍耐力と探求心: 新薬開発は成功率が低く、非常に長い期間を要するプロジェクトです。困難な状況でも諦めずに、目標達成に向けて粘り強く取り組む探求心と忍耐力が求められます。

開発職(製薬会社)の薬剤師の1日の流れ(例:CRAの場合)

開発職の1日の流れは、職種や担当業務、プロジェクトの進捗状況によって大きく異なります。ここでは、外勤も多いCRA(臨床開発モニター)の1日を例としてご紹介します。

  • 外勤日:
    • 午前: 事前にアポイントを取った担当医療機関へ直行。治験責任医師や治験コーディネーター(CRC)と面会し、治験の進捗状況の確認、原資料との照合(SDV)、治験薬の管理状況の確認、有害事象の確認など、モニタリング業務を実施。
    • 昼休憩: 移動中や医療機関近くで休憩。
    • 午後: 別の医療機関を訪問し、同様にモニタリング業務。あるいは、午前中に訪問した医療機関での残務処理や、関連部署との情報交換。
    • 夕方~: 訪問終了後、直帰またはオフィスに戻り、モニタリング報告書の作成準備。
  • 内勤日:
    • 午前: モニタリング報告書の作成、メール対応、電話会議(社内チームや医療機関との打ち合わせなど)。
    • 昼休憩:
    • 午後: 担当する治験実施計画書や関連資料の読み込み、GCPやSOP(標準業務手順書)の確認、研修への参加、次の訪問準備など。
    • 終業前: その日の業務進捗の整理、翌日のスケジュール確認。

開発職(製薬会社)で薬剤師として働く魅力とやりがい

製薬会社の開発職は、大変な面も多いですが、他では得られない大きな魅力とやりがいがあります。

  • 新しい医薬品を世に送り出す達成感: 自身が開発に関わった医薬品が、承認され、多くの患者さんの治療に役立つことは、何物にも代えがたい大きな喜びと達成感をもたらします。
  • 最先端の科学技術や医学・薬学への貢献: 常に最新の科学技術や医学・薬学の知識に触れ、それらを活用して医療の進歩に直接的に貢献できます。
  • 高度な専門性を活かし、深められる: 薬剤師としての専門知識やスキルを最大限に活かし、さらに深化させていくことができます。
  • グローバルな環境で活躍できるチャンス: 外資系企業や国際共同治験に携わることで、国際的な舞台で活躍するチャンスも広がります。
  • チームで大きな目標を達成する喜び: 研究者、医師、統計家、薬事担当者など、多様な専門家と協力し、チーム一丸となって困難な課題を乗り越え、大きな目標を達成する経験は貴重です。
  • 社会貢献度の高さと給与水準: 人々の生命と健康に貢献するという社会的意義の大きな仕事であり、一般的に給与水準も高い傾向にあります。

開発職(製薬会社)で働く薬剤師の大変さ・注意点

魅力的な開発職ですが、以下のような大変さや注意点も理解しておく必要があります。

  • 新薬開発の成功率の低さと長期戦: 新薬開発は、多くの候補化合物の中から実際に承認に至るのはごくわずかであり、長い年月と多大な労力を費やしても、必ずしも成功するとは限りません。
  • 常に求められる高度な専門性と継続的な学習: 医学・薬学は日々進歩しており、常に最新の知識を学び続け、自身の専門性を高めていく努力が不可欠です。
  • 規制やガイドラインの遵守と変更への対応: GCPや薬事法規など、遵守すべき多くの規制やガイドラインがあり、それらの変更にも迅速に対応する必要があります。
  • 業務負荷の高さとプレッシャー: プロジェクトの進捗状況や締め切りによっては、業務負荷が高まり、多忙な時期が続くこともあります。また、開発の成否が企業の将来を左右することもあるため、大きなプレッシャーを感じることもあります。
  • CRAの場合は出張が多い: 担当する医療機関が広範囲にわたる場合、出張が多くなる傾向があります。
  • 直接的な患者対応の機会は少ない: 臨床開発職であっても、薬局や病院の薬剤師のように日常的に患者さんと直接コミュニケーションを取る機会は限られます。

開発職を目指す薬剤師のキャリアパスと準備

薬剤師が製薬会社の開発職を目指す場合、どのようなキャリアパスや準備が考えられるでしょうか。

  • 新卒で目指す場合:
    • 製薬会社の研究開発部門や臨床開発部門、薬事部門などは、薬学部(特に6年制)卒業生に加え、薬学系や生命科学系の大学院(修士・博士課程)修了者を積極的に採用しています。大学での研究内容や専門性が重視されることが多いです。
    • CRAを目指す場合は、薬学部卒だけでなく、看護師や臨床検査技師などの医療系資格を持つ人も対象となることがあります。
  • 薬局や病院での臨床経験を経て目指す場合:
    • 数年間の臨床経験を積んだ後、CRAやMSLといった職種にキャリアチェンジする薬剤師も少なくありません。臨床現場での経験やコミュニケーション能力が強みとなります。
  • 準備しておきたいこと:
    • 専門知識の深化: 自身の興味のある分野や、目指す職種に関連する薬学・医学の知識を深めておくこと。
    • 語学力(特に英語)の向上: 英語の論文を読んだり、国際的な会議に参加したり、外資系企業で働く上で、英語力は非常に重要です。TOEIC®などのスコアも一つの目安になります。
    • 情報収集: 製薬業界の動向、企業の開発パイプライン、各職種の具体的な業務内容などを、企業説明会やインターンシップ、OB/OG訪問などを通じて積極的に収集しましょう。
    • 関連資格の検討: 直接的な必須資格は少ないですが、例えば治験に関する知識を深めるためにGCP関連の研修を受けたり、統計学の知識を身につけたりすることは有効です。

まとめ

薬剤師が開発職として働く場合、特に製薬会社においては、新しい医薬品を創り出し、それを必要とする患者さんの元へ届けるという、非常にやりがいのある、そして社会貢献度の高い仕事に携わることができます。その道のりは決して平坦ではなく、高度な専門知識、論理的思考力、コミュニケーション能力、そして何よりも強い探求心と忍耐力が求められます。

しかし、最先端の科学技術に触れ、医療の未来を切り拓く一翼を担えることは、大きな魅力であり、薬剤師としてのキャリアを考える上で非常に価値のある選択肢の一つと言えるでしょう。ご自身の適性や興味・関心、そして将来の目標をよく見極め、この挑戦的なフィールドに足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。この記事が、薬剤師の開発職という仕事内容についての理解を深める一助となれば幸いです。

ABOUT ME
黒岩満(くろいわみつる)
黒岩満(くろいわみつる)
キャリアアドバイザー
専門職の就職・転職活動を支援しています。求職者に対して、求人情報の提供、応募書類の添削、面接対策、キャリアプランの作成など、様々なサポートを行っています。好きな漫画は、ブラック・ジャック。
記事URLをコピーしました