薬剤師の平均転職回数は?回数よりも大切なキャリアの築き方
「薬剤師って、キャリアの中で平均して何回くらい転職するものなのだろう?」「転職回数が多いと、次の転職で不利になるのではないか?」――。自身のキャリアを見つめ直し、転職を考え始めたとき、他の薬剤師がどのようなキャリアを歩んでいるのか、特に「転職回数」という指標は気になるポイントかもしれません。周りで転職を経験した人の話を聞く機会が増えると、自身のキャリアについて不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、「薬剤師の平均転職回数」という問いをきっかけに、薬剤師のキャリアにおける転職の実態、転職回数がキャリアに与える影響、そして回数という数字に一喜一憂するのではなく、あなた自身の満足のいくキャリアを築くために本当に大切なことは何かについて、詳しく解説していきます。
「薬剤師の平均転職回数」という問いの答えは一つではない
まず、結論から言えば、「薬剤師の平均転職回数は〇回です」という、全ての人に当てはまる明確な答えは存在しません。なぜなら、その数字は以下のような多くの要因によって大きく変動し、また「平均値」という数字そのものが、必ずしも個々の実態を正確に反映しているとは限らないからです。
- 世代による違い: キャリアに対する価値観が異なるため、若い世代とベテラン世代とでは、転職に対する考え方や実際の回数も異なります。
- 性別やライフステージによる違い: 特に女性薬剤師の場合、結婚、出産、育児、あるいは配偶者の転勤といったライフイベントを機に、働き方を変えるための転職を経験することが多く、結果として転職回数が多くなる傾向が見られることがあります。
- 働き方(雇用形態)による違い: 正社員として一つの職場でキャリアを積む人もいれば、パートタイムや派遣薬剤師として、ライフスタイルに合わせて複数の職場を経験する人もいます。
- 勤務地や専門分野による違い: 地域による薬剤師の需給バランスや、専門性を追求するためのキャリアチェンジなど、個々の状況によっても転職の動機や回数は大きく変わってきます。
公的な機関による正確な最新データも限定的であり、また、転職を一度も経験しない人もいれば、10回以上経験する人もいる中で、それらを単純に平均化した数字に、あなた自身のキャリアを照らし合わせて一喜一憂することには、あまり意味がないかもしれません。
大切なのは、「平均何回か」という数字そのものよりも、なぜ薬剤師は複数回の転職を経験することが少なくないのか、その背景を理解し、あなた自身の転職をどう位置づけるかということです。
なぜ薬剤師は複数回の転職を経験することが少なくないのか?その背景
薬剤師のキャリアパスにおいて、転職が比較的活発に行われると考えられる背景には、薬剤師という職業特有のいくつかの要因があります。
- 多様なキャリアパスの存在と、それに伴うキャリアチェンジ: 薬剤師の活躍の場は、調剤薬局、病院、ドラッグストアだけでなく、製薬企業(MR、MSL、研究開発、薬事など)、CRO/SMO(治験関連)、行政機関など、非常に多岐にわたります。キャリアを積む中で、異なるフィールドに挑戦したいという思いから、業態を越えたキャリアチェンジを経験する人が少なくありません。
- 専門性を追求するためのステップアップ転職: がん専門薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、感染制御認定薬剤師といった、高度な専門性を証明する資格の取得を目指す上で、現在の職場では必要な症例経験が積めない、あるいは教育体制が整っていないといった理由から、より専門性の高い医療機関へ転職するケースがあります。
- ライフステージの変化への柔軟な対応の必要性: 結婚による転居、出産・育失からの復職、あるいは家族の介護といったライフステージの変化に合わせて、勤務地や勤務時間(例:フルタイムからパートタイムへ)、業務内容を変更する必要が生じやすく、それが転職という形に繋がることが多くあります。
- 労働条件や待遇改善への期待: 薬剤師は専門職であり、その労働力に対する需要は常に一定数存在します。そのため、現在の給与や休日、残業時間といった労働条件に不満がある場合、より良い条件を求めて転職するという選択肢を比較的取りやすい環境にあります。
- 職場環境や人間関係の問題: 医療現場は、時に高い緊張感やストレスを伴います。また、特に小規模な薬局などでは、人間関係が固定化しやすく、一度合わないと感じると、環境を変えるために転職を選ぶ方もいます。
- 求人の流動性と「転職しやすい」という認識: 国家資格を持つ専門職であるため、他の職種と比較して「次の職場が見つかりやすい」という安心感が、転職への心理的なハードルを下げ、キャリアを見直す行動を後押しする一因となっている側面もあるでしょう。
これらの要因が複合的に絡み合い、結果として薬剤師はキャリアの中で複数回の転職を経験することが珍しくない状況を生み出しているのです。
転職回数がキャリアに与える影響:メリットとデメリット
転職回数は、あなたのキャリアに対して、ポジティブな影響もあれば、ネガティブな影響を及ぼす可能性もあります。重要なのは、その「回数」そのものではなく、それぞれの転職がどのような「質」であったかです。
メリット(計画的で質の高い転職を重ねた場合)
- 幅広い経験とスキルの習得: 異なる業態(病院、薬局、企業など)や、多様な診療科、様々な規模の組織で働くことで、幅広い知識とスキル、そして高い適応能力を身につけることができます。
- キャリアの方向転換と新たな可能性の発見: 転職を通じて、自分では気づかなかった新たな適性や、より情熱を注げる分野を発見し、キャリアの方向性を柔軟に修正していくことができます。
- 人脈の拡大: 様々な職場で働くことで、多くの同僚、医師、その他の医療スタッフとの人脈が広がり、それが将来のキャリアにおいて貴重な財産となることがあります。
- 段階的な年収アップの実現: 自身のスキルアップや市場価値の向上に合わせて、より良い待遇の職場へとステップアップしていくことで、段階的な年収アップを実現できる可能性があります。
- 自分にとって最適な職場環境の発見: 複数の職場を経験することで、自分がどのような企業文化や人間関係、働き方の下で最もパフォーマンスを発揮できるのかを深く理解し、最終的に自分にとって最適な環境を見つけ出すことができます。
デメリット(短期間での無計画な転職を繰り返した場合)
- 「ジョブホッパー」というネガティブな評価: 1年未満などの短期間で転職を繰り返していると、採用担当者から「忍耐力がない」「協調性に問題があるのでは」「採用してもまたすぐに辞めてしまうのではないか」といった、強い懸念を抱かれるリスクが高まります。
- 専門性が身につきにくい: 一つの職場でじっくりと腰を据えて業務に取り組む機会が失われるため、特定の分野における深い専門知識やスキルが身につきにくく、「器用貧乏」になってしまう可能性があります。
- 昇進・昇格の機会の損失: 多くの組織では、役職への昇進には一定期間以上の勤続年数が求められることが一般的です。転職を繰り返すことで、マネジメント職などへのキャリアアップの機会を逃しやすくなります。
- 退職金の不利益: 勤続年数がリセットされるため、退職金制度がある職場であっても、生涯で受け取る退職金の総額は少なくなる傾向にあります。
- 年収が上がりにくい、あるいは下がるケースも: 転職のたびに給与がリセットされたり、交渉力が弱いと前職よりも低い年収で妥協してしまったりと、必ずしも年収アップに繋がるとは限りません。
- 人間関係の再構築の繰り返し: 新しい職場に移るたびに、一から人間関係を築き直す必要があり、これが精神的な負担となることもあります。
「回数」に囚われない!後悔しない転職のために本当に大切なこと
転職回数という数字を気にするよりも、後悔のない、そしてあなたのキャリアにとってプラスとなる転職を実現するためには、以下の点が何よりも重要です。
- 一つ一つの転職に「明確な目的」があるか: 「なぜ、このタイミングで、この職場に転職するのか」――その目的が、あなたの長期的なキャリアプランの中で、どのような意味を持つのかを明確に説明できることが大切です。
- キャリアに「一貫性のあるストーリー」を描けるか: たとえ複数の職場を経験していても、それらの経験が「〇〇という専門性を高めるため」「△△というスキルを習得するため」といった、一貫したストーリーとして繋がっていれば、それはあなたの多様な経験と計画性を示すポジティブな要素となります。
- 各職場での「貢献」と「学び」を具体的に語れるか: たとえ在籍期間が短かったとしても、その職場であなたが何を学び、どのような工夫をし、そしてどのように組織に貢献しようと努力したのかを、具体的なエピソードと共に語れることが重要です。
- 常に「円満な退職」を心がけているか: どのような理由であれ、現在の職場を辞める際には、引き継ぎ業務を責任を持って行い、周囲への感謝の気持ちを忘れず、できる限り円満な形で退職する姿勢は、社会人としてのあなたの信頼性を高めます。
- 次の職場への「長期的な貢献意欲」を伝えられるか: 面接などでは、「これまでの経験を活かし、今度こそ腰を据えて、貴社(または当院、当薬局)の発展に長期的に貢献していきたい」という強い意志と覚悟を伝えることが、採用担当者の不安を払拭する上で非常に重要です。
転職回数が気になってしまう薬剤師が、次の一歩を踏み出すためのヒント
もし、ご自身の転職回数が気になり、次の転職活動に不安を感じているのであれば、以下の点を意識してみてください。
- まずは徹底した自己分析から: これまでのキャリアを正直に振り返り、それぞれの転職の理由と、そこで得た経験や学びを客観的に整理しましょう。そして、今後のキャリアプランを改めて明確に描きます。
- 応募書類や面接での「伝え方」を戦略的に工夫する: これまでの転職経験を、決してネガティブに捉えるのではなく、「多様な環境で幅広いスキルを習得するための、計画的なステップであった」というように、ポジティブなストーリーとして再構築し、一貫性を持って説明できるように準備しましょう。
- 転職エージェントに相談し、客観的なアドバイスをもらう: 経験豊富なキャリアコンサルタントに、あなたの職務経歴や転職回数について正直に相談し、それが転職市場でどのように評価されるのか、そしてどのようにアピールすれば良いのか、客観的な視点からアドバイスをもらうのも非常に有効な手段です。
まとめ:「平均転職回数」という幻影に惑わされず、あなた自身のキャリアを築こう
薬剤師の「平均転職回数」という数字は、あくまで社会全体の統計的な傾向を示すものであり、あなたのキャリアの価値を測る絶対的なものでさありません。大切なのは、回数という数字に一喜一憂したり、他人と比較して焦ったりするのではなく、あなた自身のキャリアプランと価値観に真摯に向き合い、一つ一つの転職に明確な目的と計画性を持つことです。
たとえ転職回数が多くても、それぞれの経験があなたの成長に繋がり、将来の目標への確かなステップとなっているのであれば、それは決してマイナスではありません。むしろ、多様な経験を持つ、魅力的な薬剤師として評価される可能性も十分にあります。
この記事が、転職回数という点に悩みを抱える薬剤師の皆さんの不安を少しでも和らげ、自信を持って、あなた自身の納得のいくキャリアを築いていくための一助となれば幸いです。